ヴェラスケス展 その2

Diego Velazquez - Portrait of a Man 1男の肖像  1635年~1645年 76.3cm x 63.3cm


ヴェラスケスは、油絵具という材料を知悉し、
油彩画を見る楽しみをこれ以上ないほど与えてくれる画家だと思う。

今回彼の作品を数多く見て私が改めて感じたのは、「容易さ (たやすさ) 」という事だ。
もう少しましな言い方もあろうと思うが、他にどう言って良いかわからないので、こう書くのだが、とにかく、彼のどんな見事な作品を見ても、苦労して描いたようには全く見えないのだ。

どの作品を見ても、一切の苦労なく、あれよあれよと言う間にたやすく出来上がってしまっているんじゃないか、という気がする。
実際には、そうでないのかもしれないが、例えば上の作品を見ていると、おそらく作品全体を仕上げるのに2時間はかかってないと私は思う。
一筆一筆に全く無駄がなく、しかも驚くほど的確で、遅滞やミスが一切ない。
これは絵を生業としている私などからすると、全く驚くべきことで、それでいて描かれた人物の性格の細部がにじみ出るような見事な描写を見せてくれる。
あまりの事に、同じ油絵描きという職業なのに悔しいとか「コンチクショウ」とか言う気持ちは全く起こらない、起こりようがない。
ただ、ほれぼれと眺め入ってしまうしか無い。

とはいえ、あえて言うが、性格描写の「深さ」という点においては、ヴェラスケスはレンブラントに一歩譲ると思う。
おそらくそこはラテンとゲルマンの民族性の差なのだろう。

さて、書きたいことは概ね書いてしまったが、図版が上のだけでは少々寂しいので、他の作品もいくつか見てみよう。

先に私は、彼のどの作品も全く苦労なしに描いているように見えると書いたが、いくつか例外がある。
それは主筋の乳幼児を描いた作品だ。
聞き分けなどある訳のない2~3歳の子供にポーズをさせてモデルになってもらうなど土台無理な話なのだが、主命となれば致し方ない。

プロスペロバルタザール・カルロス王子と小人 1631~32年 128cm x 101.9cm

ヴェラスケスがこの絵を描いている時、王子はまさに2~3歳だった。
隣にいる小人の伸びやかで見事な描写に比べて、王子の顔はとても可愛らしいのだけど、その表情と姿勢の硬さに苦労がしのばれる。
それを補おうとしてか、その王子の着ている衣装の描写の丹念さが涙ぐましい。

この他に美術史美術館の所蔵作品として、3歳のマルゲリータ・テレーザ王女と2歳のフェリペ・プロスペロ王子の肖像があり、それも展示されていたが、同じように可愛らしい顏つきながら、その表情には硬さがあり、やはりそれを補うように見事なガラスの花瓶や子犬が描かれていて、涙を誘う。

displayimage1.jpeg
3歳のマルゲリータ・テレーザ王女 1654年 128.5cm x 100cm

displayimage2.jpeg
2歳のフェリペ・プロスペロ王子 1659年 174.5cm x 148cm

プリンツバルタザ_ルバルタザール・カルロス王子騎馬像  1635年 209cm x 173cm

上のバルタザール・カルロス王子は当時5~6歳だったので、まだましかもしれないが、わがまま一杯に育てられた男の子には5分間じっとしているのだって無理だったろう。
それゆえにこの王子の顔は少し描写が甘い感じがする。
しかし、それが気にならないほどの画面の統一感と雄大さに参ってしまう。
特にバックの風景と空の筆の走り具合は素晴らしいものだ。

displayimage.jpeg
ウルカヌスの鍛治場 1630年  290cm x 223cm

これはギリシャ神話を元にした、古代ローマの詩人オヴィディウスの「変容」という叙事詩からの一場面で、
火と鍛治の神であるウルカヌス(左から二人目)の仕事場に太陽神アポロンが現れ、ウルカヌスの妻ヴェヌス(ヴィーナス)と軍神マルスの密通を暴露している場面だそうだ。
どおりで皆の驚きようが半端ない訳だ。
私は、特に右から二人目のお兄さんの顔を見ると、つい微笑んでしまう。
いかにも人の良さそうな顔ながら「唖然」という言葉がこれほど似つかわしい顔もなかろう。

さて、ヴェラスケス展の作品解説は、きりがないので、これぐらいにしておこう。

私が十年ほど前に購入した全2巻のヴェラスケスの画集の表紙には、「Maler der Maler」(絵描きの中の絵描き)と言う言葉が標語のように印刷してあって、まさにヴェラスケスにぴったりな言葉だなあ、と常々思っていたが、今回の展覧会のディスプレイにもこの言葉があり、これが19世紀フランスの印象派の創始者エドゥアール・マネの言葉だと知った。
両者とも私の大好きな絵描きなので、なんとなく嬉しい気持ちになって私は会場を後にしたのであった。

この日は寒い日だったけど、3時間以上会場にいて少々火照った体をオーバーコートで包んで外に出ると、なんといつの間にか雪景色になっていてびっくりしてしまった。

DSCN7844.jpg


ポチっと応援クリック
よろしくお願いします!




にほんブログ村 海外生活ブログ オーストリア情報へ

にほんブログ村 美術ブログ 油彩画へ
スポンサーサイト