私の映画遍歴 その6 「あん」

DSCN3898.jpg映画館「フィルム・カジノ」の入り口。右のショウウィンドウには「あん」のポスターが見える。


この映画「あん」の監督、河瀬直美さんの劇場デビュー作である「萌の朱雀」を見たのは1997年、この同じ「フィルムカジノ」という小さな映画館だった。
ずいぶん風変わりな演出をする人だなぁ、というのが私の最初の感想だったけど、決して嫌いではなかった。

その後、昨夜見たこの映画まで、劇場でこの人の映画を見る事はなかったが、監督、撮影、ナレーションまで彼女一人でこなして作った、「美しき日本・奈良」という五分足らずのショートムービーは、ネットで簡単に見られるので、サイトにアップされると必ず見ていた。
このショート・ドキュメンタリーは、彼女が生まれ育った奈良県という土地の、観光とは無縁の、山深い奥処にどんどん踏み込んで行き、とうとう日本人の精神性の奥深い場所にまで到達したような映像だった。
その同じ線上に、この映画「あん」が有る。

稀代の名女優、樹木希林に河瀬が要求したのは、このドキュメンタリーに登場する、演技などとは全く無縁の市井の人々と同じ、素朴さと純粋さだったのではないか?
そう思えてならない。

樹木希林はその難題に見事に答え、さらに、ハンセン氏病患者という、この世の中で最も弱い立場の人だけが持ち得る繊細さと知恵まで、十分に感じさせてくれた、と私は思う。

劇中、ハンセン氏病の施設の中で、千太郎やワカナを前にして、初めて施設に連れてこられた若い頃を回想し語る彼女の演技は、まさに「入神」としか言いようがない。
以後映画の終わりまで、私の目からは涙が溢れ続けた。
映画館の中は、平日にもかかわらずほぼ6割ほどの入りで、日本人は私一人だけだったが、私と同じように鼻をかむ音が随所で起こっていた。

見終わって家路を急ぐ私の目からは、相変わらず涙が出続けて困ってしまったが、こんな事は、学生時代に見た「名もなく貧しく美しく」と新婚時代に妻と見た「若者のすべて」以来であった。

<Kenwan記す>







ポチっと応援クリック
よろしくお願いします!


にほんブログ村 海外生活ブログ オーストリア情報へ

にほんブログ村 美術ブログ 油彩画へ


スポンサーサイト